経営支援診断報告書
平成17年11月21日診断員 榊原 貞夫
1 創業者の概要
(1)現住所 東京都中野区中野5丁目41番8号 カースク中野901号
(2)氏 名 樺澤 潤(29歳)
(3)信頼度
本人は若い頃から事業経営を考えてきた。そのため今回の創業にあたっても 幅広く、
かつ深く検討を進めている。性格的にも明るく誠実で、育毛サロンというサービス業の
経営者として適任である。
(4)経 歴
群馬県の出身で地元の高校を卒業後、亜細亜大学経営学部に進学した。卒業後、光通
信関連会社に入社し営業を経験、その後ジャスネットコミュニケーションズ(株)でWEBマ
ーケティングとして転職した。平成16年4月から本年8月まではジャスネット総研で
COOを勤めた。これら5年の社会経験が今回の創業の準備にも大きく役立っている。
(5)創業の動機
若いときから将来は自分で事業を興すことを考え、そのため会社勤務時代から企業経
営について研鑚を積んできた。本人は会社時代に若禿げに悩み、アートネイチャーやア
デランスに通ったり、自分自身で育毛剤を作って対応した結果、回復し悩みを克服する
ことができた。
そのときの経験から「育毛事業」に関心を持ち、特に若い人達の悩みを解消してあげ
たい、という考えが強くなった。業界の調査をするにつけ、育毛事業の将来性や成長性、
業界の暖かさを感じ一生携われる事業と考え、今回創業を決意した。
2 環境分析
(1)事業分野の現状と発展の可能性
1 育毛界の現状
成人男性の薄毛の人口が大幅に増加している。特に10代、20代の若者に「抜け毛・
若禿げ」が急増している。
理由は i)高カロリー、高脂肪食の摂取など食生活の欧米化
ii)就寝時間の遅滞(毛髪は夜10時から12時に活性化する)
iii)生活サイクルの多様化や社会生活の複雑化による心身のストレスの増加
などが考えられる。
2 市場規模
アデランスの調査によれば、日本の成人男性の薄毛人口比率は1982年の15.6%か
ら22年後の2004年には26.0%に増加しているという。したがって、全国で約1900
万人が薄毛で悩んでいる。
中野区の成人男性は約133千人であるから、薄毛に悩んでいる人は約34千人いるこ
とになる。大きな市場であり、かつ成長市場である。
3 市場の特色
i)巨大資本企業が市場を支配している
* 大手製薬メーカーの育毛剤では大正製薬、第一製薬、資生堂など
* 総合毛髪業の施術ではアデランス、アートネイチャー、リーブ21、プロピア
* 大手薬局ではマツモトキヨシ、その他のドラッグストア
ii)情報が氾濫
多種多様な情報が氾濫し、間違った知識を持った人が増えている。即ち、専門情報は
流れても、各自の症状に合った正しい薬や処方策が選べない。また、カウンセリングは
非常に高い価格のものが多い。
4 業界の問題点
i)販売面
商品を購入する際に「育毛剤の区別」や「何に効くのか」を客観的に判断する情報が
ない。また、カウンセリングでも予約日程がなかなか取れず、しかも1回に3~4時間
かかり融通が利かない。
ii)コスト面
単に育毛剤のみを販売する傾向がある。「専門員によるアドバイス」をプラスし付加価
値を付けた内容にすべきである。また、育毛カウンセリングや施術では年間プランが多
く、金額的にも100万円単位で高額なものが多い。
(2)個別経営資源の分析
1 創業者
先にも記したように本人は若い頃、若禿げに悩み各種の処置を経験した。その中から
悩む側の気持ちを充分知り尽くした。したがって、大手の製薬会社やドラッグストアに
はない親身のカウンセリングや施術が可能であり、それが強みである。
2 情報と技術
社長が自分の経験から得た情報源や技術を持っていることおよび初年度には美容師1
名と共に運営する計画であり、専門技術についはそれぞれ分担することになる。
3 資金
必要資金は700万円で、内350万円の自己資金が用意されており、残り350万円
を区からの融資を希望している。(詳細は後述)
4 立地
開業予定地は中野区新井1-11-8 海老沼ビルの3階でJR中野駅北口から徒歩
約7分程度の所にある。育毛サロンという特殊な業種であるが、ビルの3階は開業当初
はハンディがある。したがって、特に開店時にはPRに力を入れる必要がある。
中野区には本格的な育毛サロンはない。道路を挟んで開業予定地の斜め前に大手ヘアサ
ロン「ASH」がある。また、中野区内には個人営業のヘアサロンが沢山あるが、そのほ
とんどは育毛はやらないので競合ではなく、むしろ共存関係にあるといえる。
3 創業業態の特徴
(1) 事業の概要
経営理念は「育毛・発毛を通じて若年層の悩みを解消し、明日への活力増進をサポー
トする」である。これを受けた事業名は「若者向けの24時間悩み相談型の育毛ショップ」
である。
主な顧客ターゲットは「若禿げに悩む若年層で、彼らの悩みに対し親身になって相談
に応じながら育毛活性商品や健康食品などを販売していく。
(2) 事業の特徴
本人は当面店舗に泊まり込んで、24時間いつでも若者の相談に応じる考えである。仕
事を持っている若者は昼間なかなか自由な時間が取れないものである。そこでどんな時
間帯でも対応できる体制をとり、大手との差別化を図っていく。
また、事業内容はカウンセリングに力を入れ、1毛髪のカウンセリング・アドバイス
をしながら、2育毛活性化商品(育毛剤やシャンプーなど)の販売をする。また、毛髪
の活性化の基本は「健康な身体づくり」が大切との考えで、3毛髪の成分をつくる「健
康食品」や毛髪の健康を促進する「睡眠グッズ」などを販売していく。
4 マーケティング計画
(1)商品構成・サービスメニューの計画
大手の有名商品から口コミ商品まで顧客が手に取り、客観的に判断できるよう陳列シ
ョップ型とし、約400種の商品を揃える。
1 毛髪活性化商品
* 大手化粧品・製薬メーカーの有名商品
* 利用者の口コミで話題の実践的商品
* 新規性の高い(電気毛髪活性化装置など)商品
2 カウンセリング
* 電話による24時間育毛相談
* 20分の無料カウンセリング
* 毛髪活性化マッサージ、カツラの取り付け
* 育毛に関するノウハウ本の提供 など
(2)仕入・販売チャネル
仕入は各メーカーからの直接仕入を考えている。倉庫まで取に行って物流費を削減す
る計画である。一方、販売に当たっては24時間の電話相談を受けながら、店頭販売、通
信販売およびインターネット販売をし、対話の中から顧客別の解決策を見つけていく方
針である。
(3)販売促進計画
店舗がビルの3階であり特に開店当初は広告・宣伝に力を入れなければならない。具
体的には、ビルの3階の窓に外から良く判る「育毛サロン」の表示をする予定である。
また、チラシを駅前や店舗周辺にまくことも考えている。さらに内容の充実したHPの
作成も必要である。サービス業は口コミが重要な集客手段であるから、営業内容の充実
が基本的には最も大切なことである。
(4)価格戦略
主要顧客が若者であることから、価格は業界最安値を目標にしている。例えば、頭髪
マッサージは10分1,000円と世間相場の約半値である。その実現のためには、徹底的
な経費節減が必要である。
(5)将来構想
当面の事業を早く軌道にのせ、ビジネスモデル特許を取得してFC化していく計画であ
る。その場合の店舗出店場所としては、中野区に限らず世田谷区の池尻や三軒茶屋を視
野に入れている。
その実現のためには、まず当面の事業を成功させることが重要である。
5 資金計画
(1)損益計画
1 開業3ヵ年の損益計画
開業初年度から3年目までの損益計画は次のとおりである。
損益計画 (単位:千円、%)
開業初年度 | 第2年度 | 第3年度 | ||||
金 額 | 売上比 | 金 額 | 売上比 | 金 額 | 売上比 | |
1 売上高 | 29,316 | 100.0 | 32,809 | 100.0 | 41,340 | 100.0 |
2 売上原価 | 18,627 | 63.5 | 19,077 | 58.1 | 22,892 | 55.4 |
3 売上総利益 | 10,689 | 36.5 | 13,732 | 41.9 | 18,447 | 44.6 |
4 経 費 | 10,238 | 34.9 | 11,770 | 35.9 | 15,864 | 38.4 |
(内 訳) | ||||||
1 人件費 | 6,690 | 22.8 | 7,650 | 23.3 | 11,286 | 27.3 |
2 家 賃 | 1,638 | 5.6 | 1,638 | 5.0 | 1,638 | 4.0 |
3 光熱水道 | 600 | 2.0 | 900 | 2.7 | 1,081 | 2.6 |
4 支払利息 | 20 | 0.1 | 16 | 0.1 | 10 | 0.1 |
5 広告・WEB | 660 | 2.3 | 792 | 2.4 | 950 | 2.2 |
6 減価償却 | 150 | 0.5 | 150 | 0.5 | 150 | 0.4 |
7 消耗品 | 480 | 1.6 | 624 | 1.9 | 749 | 1.8 |
5 経常利益 | 451 | 1.6 | 1,962 | 6.0 | 2,583 | 6.2 |
6 税引後利益 (法人税40%で算出) | 271 | 0.9 | 1,177 | 3.6 | 1,550 | 3.7 |
(注)初年度は平成17年12月~平成18年11月 |
(参考)
(初年度) | (第2年度) | (第3年度) | ||
* 売上高経常利益率 | 1.5 | 6.0 | 6.2 | (%) |
* 損益分岐点売上高 | 28,612 | 29,761 | 37,162 | (千円) |
* 損益分岐点比率 | 97.6 | 90.7 | 89.9 | (%) |
* 安全余裕率 | 2.4 | 9.3 | 10.1 | (%) |
初年度の数値は売上高経常利益率、安全余裕率ともに低いが、その後順調に伸びている。 |
2 売上計画
* 初年度は 29,316千円の売上である。内訳は次のとおり。
育毛剤 | 21,068千円 |
カウンセリング | 6,580千円 |
健康食品 | 494千円 |
関連グッズ | 1,174千円 |
合 計 | 29,316千円 |
* 2年目は対前年約12%増の売上
* 3年目は軌道に乗ってくるので、対前年約26%増の売上を見込んでい入る。
3 人件費
初年度は本人と美容師の2名体制でスタートし、半年経過した平成18年6月からアル
バイトを1名雇用する計画である。月次給与、賞与、社会保険関係費を含めている。月
次給与は本人が当面20万円/月、美容師は20万円/月、アルバイトは15万円/月で
ある。2年目以降はアルバイトを1名づつ増やし3年目には5名体制とする。
4 家賃
137千円/月×12ヶ月=1,638千円/年 で推移する。
5 支払利息
年利0.4%で計算
6 減価償却
900千円×0.9÷6年=150千円/年
償却対象は内装工事のうち700千円と可視光線器具200千円で6年償却である。
(2)投資計画
設備投資は総額2,866千円である。内訳は次のとおり。
敷金(2ヵ月分) | 273千円 |
内装工事 | 738千円 |
電気工事 | 143千円 |
外装工事 | 376千円 |
電話工事 | 98千円 |
什 器 | 1,238千円 |
合 計 | 2,866千円 |
6 資金計画と調達計画
(1)資金計画
設備資金の2,866千円と運転資金の4,134千円を合わせて、 7,000千円が必要で
ある。内訳は次のとおりである。
1 設備資金
敷 金(2ヵ月分) 273千円
機械・備品等 2,593
合 計 2,866千円
2 運転資金
人件費、家賃、水道光熱費、その他経費の3か月分 4,134千円
(2)資金調達計画
必要資金7,000千円で、これを自己資金で3,500千円、残り3,500千円を区
からの融資を考えている。
(3)担保および保証人
担保はないが本人の実父(サラリーマン)が保証人になることで内諾を得ている。
(4)返済計画
返済額は65千円/月である。
3,500千円÷54ヶ月(60回?6回)=65千円/月
* 初年度は 65千円× 6ヶ月=390千円
* 2年目以降は 65千円×12ヶ月=780千円
< 返済計画 > (単位:千円) | |||
(初年度) | (2年度) | (3年度) | |
1 借入金返済原資 | 421 | 1,358 | 2,278 |
(内 訳) | |||
イ 前年度剰余金 | - | 31 | 578 |
ロ 減価償却 | 150 | 150 | 150 |
ハ 税引後利益 | 271 | 1,177 | 1,550 |
2 返済額 | 390 | 780 | 780 |
3 次年度への繰越 | 31 | 578 | 1,498 |
(注) 税引後利益は経常利益の60%とした。 したがって、前記の損益計画を実現できれば十分返済は可能である。 |
7 融資の可否とその成果
融資は妥当と考える。
開業の経緯でも記したように、本人は数年前から創業の計画を抱き準備を重ねてきた。
育毛サロンは成長業種であり、中野には大きな競合店もないことから有望な業種である。
周到な準備と熱意で創業時の困難を克服していくであろう。
しかし、事業経営は初めての経験でもあり、予測不能な事態に直面することも考えられる。
順調に成長・発展していくためには、今後とも育毛業界や事業経営について、さらに 勉強し研鑚を積み、経営努力をしていくことが必要である。
以上